1933年創業、セントラルの路地に佇む老舗茶楼「陸羽茶室」。平日の朝8時、開店のベルが鳴る前から常連客が扉の前に並び、10分もしないうちに2階建ての空間はざわめきと茶の香りで満たされる。香港で「本物の飲茶」を体験したいなら、ここ以外に答えはない。
ベストな時間帯と季節
陸羽茶室を訪れるなら、迷わず平日の開店直後、午前7時30分〜8時台を狙いたい。週末は地元客に加えて観光客も集まり、長蛇の列は避けられない。平日の朝は、引退した紳士が新聞を広げ、スーツ姿のビジネスパーソンが一服する、香港本来の「一盅両件(一杯のお茶と二皿の点心)」の光景が広がる。
季節は10月〜3月の乾季が快適だ。香港の夏(6〜9月)は高温多湿で移動だけで体力を消耗するが、冬場は涼しく、熱々の蒸籠を手にする喜びもひとしお。旧正月前後(1〜2月)は特別メニューが登場するが、常連で席が埋まるため一層早い到着が必要になる。
核心スポット・メニュー・体験
陸羽茶室のエントランスと内装
扉をくぐった瞬間、時計の針が数十年前に戻るような感覚に包まれる。民国時代の彫刻が施された木製の衝立、飴色に磨かれたテーブル、壁に掛けられた水墨画——すべてがほぼ開業当時のまま保存されている。床の石畳が歩くたびに小さく鳴り、その音すらこの店の歴史の一部に聞こえる。ユネスコの無形文化遺産にも関連する「飲茶文化」の精髄が、この空間に凝縮されている。
- 📍 スタンレー・ストリート24〜26番地(中環/セントラル)
- 💰 席料込みで一人HK$120〜200が目安
- ⏰ 月〜土 7:00〜23:00 / 日・祝 7:00〜21:30
- ⭐ 4.4 / 5.0
地元の常連は必ず「決まった席」を持っている。案内されるままに座るより、入口のスタッフに「靜一點的位置(静かな席を)」と伝えると、奥の落ち着いたコーナーに通してもらえることがある。
蝦餃(ハーガウ)
陸羽の蝦餃は、薄く透けるほど丁寧に延ばされた皮と、ぷりっとした海老の食感で評判が高い。点心師が手で包む折り目の数は最低9本——それが老舗の基準とされる。蒸し上がったばかりのものを箸で持ち上げると、皮越しにぼんやりと海老のオレンジ色が透ける。それだけで「これは本物だ」とわかる瞬間がある。
- 📍 陸羽茶室 点心メニュー
- 💰 HK$68〜78(3個一皿)
- ⏰ 朝の点心は7:00〜14:30のみ提供
- ⭐ 4.7 / 5.0
開店直後のオーダーが鉄則。時間が経つほど蒸籠の回転が遅くなり、出来立てを逃しやすい。「最初に蝦餃を注文する」が常連の不文律だ。
叉焼包(チャーシューバオ)
陸羽の叉焼包は、生地がふんわりと花びらのように割れた「開花した」タイプ。香港式飲茶の定番中の定番だが、ここでは甘みと塩みのバランスが絶妙で、何十年も変わらない配合が守り続けられている。老舗の点心師の技と、毎朝仕込まれる叉焼の丁寧な下処理が、他店との差を生む。白いふっくらとした生地と、蜂蜜色に輝く餡の断面は、見るだけで食欲をそそる。
- 📍 陸羽茶室 点心メニュー
- 💰 HK$58〜68(3個一皿)
- ⏰ 朝の点心タイム(7:00〜14:30)
- ⭐ 4.5 / 5.0
生地が破れているものは避け、花のように割れた頂点を確認してから取るのが、常連の小さなこだわり。蒸籠の底に近い個数より、上段のものの方が蒸れすぎず食感がよい。
腸粉(チョンファン)
米粉の薄い皮で海老や叉焼を巻き、甘口の醤油をかけて食べる腸粉は、飲茶の朝の主役の一つだ。陸羽では専用の蒸し台で仕上げるため、皮がなめらかでとろけるような口当たりを持つ。上からかけられる薄口醤油は砂糖が溶け込んだ香港独自の味で、醤油の塩辛さを嫌う人でも箸が止まらなくなる。
- 📍 陸羽茶室 点心メニュー
- 💰 HK$65〜85(具材により変動)
- ⏰ 朝の点心タイム(7:00〜14:30)
- ⭐ 4.5 / 5.0
醤油は自分でかける量を調整できる。最初は少なめにかけて味を確認し、好みで追加するのが賢い食べ方。海老入り(鮮蝦腸粉)が最もポピュラー。
プーアル茶(普洱茶)のサービス
飲茶の主役は点心だけではない。陸羽では席に着くと最初に「飲乜茶(どのお茶にしますか)」と問われる。これが香港飲茶文化の核心で、お茶の選択が食事全体の流れを決める。普洱茶(プーアル)は発酵の深い香りと、油分を穏やかに流す作用で、飲茶との相性が抜群だ。何煎も注ぎ足してくれるポットサービスは、席にいる間中続く。
- 📍 陸羽茶室 茶葉メニュー(普洱・鉄観音・香片など)
- 💰 HK$18〜35(一人分の席料に含まれる場合あり)
- ⏰ 終日提供
- ⭐ 4.6 / 5.0
ポットのお湯が減ったら、蓋を半開きにして斜めに置くのが「お湯を足してほしい」という合図。言葉より先に通じる、香港の茶楼文化の知恵だ。
おすすめの動線
陸羽茶室を起点にセントラルの朝を歩く、充実の半日プランを紹介する。
07:00 ホテルを出発。MTR中環駅D出口から徒歩約5分。スタンレー・ストリートを上り、陸羽茶室の前に到着。
07:15〜07:30 開店前に到着し、列に並んで雰囲気を確認。店の外観と古い看板を観察する時間にもなる。
07:30〜09:30 入店・飲茶。プーアル茶を頼み、蝦餃→叉焼包→腸粉の順に点心を楽しむ。急がず、お茶を飲みながら2時間程度かけてゆっくり過ごすのが流儀。
09:30 会計を済ませて退店。スタンレー・ストリートを下るとセントラル市場(Central Market)まで徒歩約7分。リノベーションされた市場内でローカルショップを見学。
10:00〜11:00 近隣のPMQクリエイティブハブ(徒歩約3分)へ。香港のデザイナーズショップや小さなギャラリーを散策。
11:00〜12:00 中環のエスカレーター(Mid-Levels Escalator)でソーホー方面へ。路地を一本入ると古書店やコーヒースタンドが点在する。
予算・移動・予約
予算の目安(一人)
- 陸羽茶室の朝食(点心3〜4皿+お茶):HK$150〜250
- MTR乗車(空港・主要エリア間):HK$10〜55
- セントラル周辺の散策は基本無料
- 一日トータル(昼食・交通込み):HK$500〜800(約HK$1≒約20円)
移動
- 🚇 MTR中環駅(Central)D出口からスタンレー・ストリートへ徒歩約5分
- 空港から市内へはエアポートエクスプレスが便利(香港駅まで約24分、HK$115)
予約について
- 陸羽茶室は基本的に予約不要(先着順)。ただし週末・旧正月前後は電話予約が可能で、2〜3日前に問い合わせるのが無難。
- 電話:+852 2523 5464
- 平日朝7時台は予約なしでも入れる確率が高い。
必ず知っておきたいヒント
- 🍴 点心の注文はメニュー表に◯をつけて渡す形式。広東語でなくても指差しとジェスチャーで十分通じる。スタッフは慣れている。
- 💴 支払いは現金推奨。Visa・Masterも使えるが、小額の場合は現金(香港ドル)がスムーズ。クレジットカードはサービス料が加算される場合がある。
- 📸 撮影はさりげなく。常連客の多い落ち着いた空間のため、フラッシュやスタンディングでの撮影は避けたい。テーブル上の点心を静かに撮る程度がマナー。
- 👔 服装の指定はないが、格式ある老舗のため過度なカジュアル(タンクトップ・ビーチサンダルなど)は避けると居心地がよい。
- 🗣️ **「唔該(M̀h-gōi)」(すみません・ありがとう)**の一言があるだけで、スタッフの表情が柔らかくなる。広東語の挨拶を一つ覚えていくだけで印象が変わる。
- ⏰ 14:30以降は点心の提供が終わる。午後に訪れると一品料理のみになるため、朝の飲茶目的ならランチタイム終了前に必ず入店すること。
まとめ
陸羽茶室の朝は、香港という都市の「記憶の層」に触れる時間だ。喧騒のセントラルにありながら、この店の中だけは1933年から続く静かな熱量が漂っている。常連の老紳士が新聞を折りたたみ、ポットのお湯を注ぎ足す——そんな何気ない朝の断片が、旅の記憶の中でいつまでも輝き続ける。
香港を訪れるなら、観光スポットを巡る前日の朝に、ここへ立ち寄ってほしい。開店7時30分に扉の前に立つ、それだけで特別な一日が始まる。「日記、続きます。」
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